血圧が高いのに降圧薬をもらえない理由:医師の判断基準を医学的に説明

【疑問】

家で血圧を測ってみると、上の血圧が160mmHgもある。下がっているかと思って、何度か測ったけど、今度は180とか190mmHgになってきた。急いで受診して薬を出してもらわなきゃ。

受診したら、血圧をすぐに下げないほうがいいって言われたけどなんでなんだろう?

脳梗塞とか脳出血とか、怖い病気も 思い浮かぶし…薬を出して欲しかったんだけどな。

そんな不安や不信を感じていませんか? 実は、医学的には理由があります。

【患者の視点】

血圧を測ってみたら、高かったし、ドキドキしながらまた測ってみたら、下がるどころかまた上がっていた。知人が脳出血を起こしていたし、一刻も早く血圧を下げてほしい。

【医者の視点】

頭痛、胸痛、呼吸苦などもないし、診察でも神経所見を含めて、明らかな異常はない。一応採血とレントゲンをとってみたけど、高血圧緊急症の可能性は低そうなので一安心。

○○さんは、とても真面目な性格をしていそうだ。少し、ストレスを感じやすい性格でもありそうな印象だ。健康診断も真面目にしっかりと受けてこられているし、基礎疾患もない。塩分も気にしていそうだし、もしかすると緊張の要素があるかもしれない。安静にして深呼吸をしてみながら、何度か測ってみよう。測ってみると、まだ少し高いけど許容範囲だ。一時的な高血圧に対しては、昔はニフェジピンの舌下投与などが行われていたが、これに対しては、やらない方が良いということになっている(5)。自宅で安静時に血圧を測定してもらって、血圧手帳に記入してもらって、1週間後に受診してもらった時にみてみよう。

1週間後

病院での血圧の測定値と家庭血圧の差が大きそうだ。白衣高血圧もありそうだ。家庭血圧は問題ない範囲だ。今のところは、降圧薬治療は開始しなくてよさそうだ。一般的な注意として、塩分を控えてもらうようにしよう。過度な飲酒や喫煙はなさそうだ。あとはカリウム摂取をもう少し増やしてもらうようにしよう。仕事が忙しくて運動はあまりできていなそうだけど、運動を少し増やしてもらうようにしよう。ストレスも減らせるといいな。

【医学的背景】

[緊張による高血圧]

緊張やストレスによる高血圧の特徴として、後述する白衣高血圧(診察室での血圧上昇)、交感神経活動の亢進、血圧変動性の増大、および心理社会的ストレス因子との関連があります。

[重症高血圧に対する短期的な降圧]

2025年AHA/ACC高血圧ガイドラインでは、急性標的臓器障害を伴わない重症高血圧(以前は高血圧緊急症と呼ばれていた)患者に対して、短期的な積極的な血圧低下や非経口降圧薬療法を行うべきではないとしている。これらの患者には、外来での経口降圧薬の再開または調整が推奨される(3)。また、医学界において権威がある雑誌の1つであるNEJMのレビューでは、ニフェジピン(経口または舌下)は、予測不可能な血圧低下により心血管イベントを引き起こす可能性があるため避けるべきであると明記している(5)。

[高血圧に対する生活習慣]

American College of Cardiology/American Heart Associationは、高血圧患者に対する生活習慣の修正として、体重減少、心臓に良い食事、ナトリウム制限、カリウム摂取増加、運動、アルコール制限、ストレス管理を推奨している(3)。

以下は、ガイドラインから抜粋(一部改変)した内容です。

対策 目標 降圧効果
体重管理 体重の5%以上の減量(肥満成人の場合) SBP 6-8mmHg低下
DASH食 果物、野菜、全粒穀物、低脂肪乳製品を豊富に含む食事 SBP 5-8mmHg低下
塩分制限 1日2,300mg未満(理想的には1,500mg未満) SBP 6-8mmHg低下
塩代替品 通常の塩から、カリウム塩(塩化カリウム25-30%)に置き換え SBP 5-7mmHg低下
カリウム摂取 1日3,500-5,000mg(食事からの摂取を推奨) SBP 6mmHg低下
アルコール制限 禁酒(または男性1日2杯以下、女性1日1杯以下) SBP 4-6mmHg低下
有酸素運動 週90-150分 SBP 4-8mmHg低下
レジスタンス運動 週90-150分(または等尺性運動:週3セッション) SBP 2-10mmHg低下
ストレス管理 瞑想(1日2回×20分)または呼吸コントロール(1日15分) SBP 5-7mmHg低下
注意:
塩代替品の使用は、慢性腎臓病患者やカリウム排泄を阻害する薬剤を使用している患者では、高カリウム血症のリスクがあるため、必ず医師に相談してください。

【受診時にすることチェックリスト】

✅ 毎日、朝夕の血圧を自宅で測定

✅ 測定結果を「血圧手帳」に記録

✅ 1週間分の記録を受診時に持参

*正しい血圧測定の方法(6,7)

以下は正しい測定の仕方ですが、あまり気にしすぎても緊張して血圧が上がる場合もあるので、リラックスすることが一番大切です。

<測定前の準備>

<測定前の準備(重要:リラックスが一番大切)>

✅ トイレを済ませておく

✅ 30分間は、カフェイン・運動を避ける

✅ 静かな場所で5分間安静

<測定時の姿勢>

✅ 背もたれのある椅子に座る

✅ 両足を床にしっかり着ける

✅ 腕をテーブルで支え、カフを心臓の高さに

<測定回数とタイミング>

✅ 朝:起床直後、降圧薬服用前

✅ 夜:就寝前

✅ 各時間帯で2回測定(1分間隔)

【まとめ】

**重要なポイント:**

✅ 緊急時を除き、薬での急激な降圧は避けるべき

✅ 外来での生活習慣改善が治療の中心

✅ ストレスや緊張で血圧が上がることもある

✅ リラックスしながら記録を取ることが大切

**患者さんへのアドバイス:**

完璧さより「続けられる工夫」を優先しましょう。

【用語解説】

白衣高血圧:診察室で測定した血圧が高血圧範囲にあるが、診察室外(家庭血圧測定または24時間自由行動下血圧測定)では正常範囲にある状態と定義される。診察室血圧が高値を示す患者の15〜30%に認められる。心血管疾患リスクがわずかに上昇する(2–4)。

[高血圧緊急症]

SBP/DBP >180/110〜120 mm Hgで、新規または悪化する標的臓器障害の証拠がある状態のこと。高血圧が重要臓器に及ぼす急性の有害作用を指す(1)。

具体的には、以下のような臓器障害を含む。

  • 脳(高血圧性脳症、頭蓋内出血、急性虚血性脳卒中)
  • 心臓(急性心筋梗塞、不安定狭心症、肺水腫を伴う急性左室不全)
  • 大血管(解離性大動脈瘤)
  • 腎臓
  • 微小血管系

【引用文献】

1.        Bress AP, Anderson TS, Flack JM, Ghazi L, Hall ME, Laffer CL, et al. The Management of Elevated Blood Pressure in the Acute Care Setting: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2024 Aug 1;81(8):e94–106. doi:10.1161/HYP.0000000000000238 PubMed PMID: 38804130.

2.        Carey RM, Muntner P, Bosworth HB, Whelton PK. Prevention and Control of Hypertension: JACC Health Promotion Series. J Am Coll Cardiol. 2018 Sep 11;72(11):1278–93. doi:10.1016/J.JACC.2018.07.008 PubMed PMID: 30190007.

3.        Jones DW, Ferdinand KC, Taler SJ, Johnson HM, Shimbo D, Abdalla M, et al. 2025 AHA/ACC/AANP/AAPA/ABC/ACCP/ACPM/AGS/AMA/ASPC/NMA/PCNA/SGIM Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committe…. J Am Coll Cardiol. 2025 Nov 4;86(18):1567–678. doi:10.1016/J.JACC.2025.05.007;CTYPE:STRING:JOURNAL PubMed PMID: 40811497.

4.        Muntner P, Shimbo D, Carey RM, Charleston JB, Gaillard T, Misra S, et al. Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2019 May 1;73(5):e35. doi:10.1161/HYP.0000000000000087 PubMed PMID: 30827125.

5.        Peixoto AJ. Acute Severe Hypertension. New England Journal of Medicine. 2019 Nov 7;381(19):1843–52. doi:10.1056/NEJMCP1901117 PubMed PMID: 31693807.

6.        Shimbo D, Artinian NT, Basile JN, Krakoff LR, Margolis KL, Rakotz MK, et al. Self-measured blood pressure monitoring at home: A joint policy statement from the american heart association and american medical association. Circulation. 2020 Jul 28;142(4):E42–63. doi:10.1161/CIR.0000000000000803;PAGE:STRING:ARTICLE/CHAPTER PubMed PMID: 32567342.

7.        Weinfeld JM, Hart KM, Vargas JD. Home Blood Pressure Monitoring. Am Fam Physician [Internet]. 2021 Sep [cited 2026 May 9];104(2):237–43. Available from: https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2021/0900/p237.html

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