【疑問】
37.5℃の微熱があって、鼻水があって喉が痛い。だるさもあるし、仕事にも行けないどころか、食事を用意するのも大変。移動するのもしんどいし、ようやく受診をすることができた。それなのに先生は話を簡単にして、診察も簡単な診察だけ。薬は解熱鎮痛薬しか出してくれない。「どうして抗生剤を出してくれないのか?」「この医者は何を考えているのか」 そんな不安や不信を感じていませんか? 実は、医学的には理由があります。
【患者の視点】
前にかかったことのあるクリニックでは、風邪を引いたときには、すぐに抗生剤を出してくれたのに、どうして抗生剤を出してくれないのかな。前も、同じことがあって、聞いてみたけど抗生剤は不要と言われたことがあるし。よくならなくて、大変な思いをして、また抗生剤を処方してもらいにくるのも嫌だな。今日、出してくれないのかな?
【医者の視点】
微熱と鼻汁、くしゃみ、咽頭痛、・倦怠感もあって、複数の臓器にわたる症状だ。おそらく、ウイルス性の上気道炎、感冒と考えて良さそうだ。インフルエンザやCOVID19なども症状的には典型的ではないし、周囲に罹患者もいなさそう。まだ、世の中的にもインフルエンザも流行っていない。基礎疾患もないし、細菌感染の可能性は、現時点では高くないから、多剤耐性菌を増やす可能性や薬の副作用の点から、抗生剤は出したくないな。対症療法中心で、解熱鎮痛薬を処方しよう。
【医学的背景】
[感染症の病原体]
感染症を起こす病原体には、細菌や真菌、寄生虫やウイルスなどがあります。細菌や真菌などによる感染症の場合には、抗生剤投与が適用となることが多いです(一部例外があります)。ウイルス感染症でも、抗ウイルス薬を投与すべき感染症もあります。
[かぜに抗生剤が効かない理由]
ただ、基礎疾患のない方がかかることの多い、急性上気道炎、いわゆる「かぜ」は、抗ウイルス薬の必要のないウイルス性の感染症であり、ご自身の免疫力で治癒することがほとんどです。逆に、抗生剤を使っても全く効かないどころか、副作用が出てしまうこともあり、百害あって一利なしということも多いです。
感冒の際に、抗生剤が必要になる場合として、感冒が二次的に細菌性感染症を起こす場合があります。急性中耳炎(小児で最多)、急性細菌性副鼻腔炎、細菌性肺炎の3つが重要です。ただ、抗菌薬の予防投与はこれらの合併症を防ぐ効果がなく、推奨されません2。
[耐性菌のリスクと抗菌薬適正使用の重要性]
従来は、抗生剤がすぐに処方される状況がありましたが、抗生剤を使用すると、腸内常在菌など体にとって、良い菌まで殺してしまったり、本当に必要なときに抗生剤が効かない耐性菌が蔓延してしまい、その結果として、重症化したり、最悪の場合、命を落としてしまうこともあり、抗生剤の適正使用のキャンペーンが行われてきました。2024年度の診療報酬改定では、抗菌薬適正使用体制加算されています。その結果、最近では、抗生剤を以前より簡単には処方しない医師が増えてきています。もちろん、細菌による感染症で必要な場合には、抗生剤をできるだけ早く投与すべき状況もあります。
[抗生剤を処方しない医者は悪い医者か]
患者さんの満足度から言うと、抗生剤を投与してくれる良い医師という見方をされることもありますが、医師の中では、容易に必要性の少ない状況で抗生剤を容易に処方することは、厳に慎むべきと考えられています。簡単に抗生剤を出してくれない医師の方が、患者さんのことをよく考えてくれている可能性があります。
【患者側でできること】
どの症状がいつ頃から始まったのか、熱がどういう経過で推移したのか、同様の症状の方との接触がないか、職場や学校で特定の病気が流行っていないかなどを参考にしながら、医師は病気の原因を判断(鑑別)しています。そして、過去の病気(既往歴)やアレルギー歴(薬にアレルギーがないか)などを総合的に加味して、診断・治療方針を決定しています。
【受診時にすることチェックリスト】
✅ 症状の時系列を記録する 「いつから喉が痛くなった」 「今日、熱は何度まで上がった」
✅ 周囲の状況を伝える 「職場で同じ症状の人がいるか」 「最近の旅行や人混みへの外出」
✅ 既往歴を伝える 「過去にかかった病気」 「現在服用している薬」
✅ アレルギー歴を伝える 「薬でのアレルギー経験」 「食べ物でのアレルギー」
上記を伝えると効率的に、診療を受けることができます。
また、感染症の場合には、受診後の経過が大事な場合もあります。新たに症状が出てくることや、長く症状が続いてしまっている場合も記録すると、再度受診をする際に参考になるでしょう。初期には、診断がつきにくいけれど、時間経過による変化が大きな情報として加わることで診断がつきやすくなることもあるでしょう。
初診時には、二次的な細菌感染症を発症していない場合や、非定型肺炎(通常と異なる症状の肺炎で、 初期診断が難しいことがある)との区別が難しい場合もあるため、時間経過も大事になってきます。
【こんな時は再度受診を】
⚠️ 1週間以上症状が続いている
⚠️ 熱が39℃以上に上がった
⚠️「新たに呼吸が苦しい」「胸が痛い」などの症状が出た
⚠️ 症状が一度良くなったのに、再び悪くなった
⚠️ 初診から3日経っても改善の兆候がない
【まとめ】
・抗生剤を簡単に出さない医師は、真剣に診療してくれている医師かもしれない
・受診する際には、症状の時系列、既往歴、薬のアレルギー歴などを伝えましょう。
・周囲の流向状況、自分の接触状況を伝えましょう
・時間が経過しても、改善がない場合には、再度相談することを考えましょう
【用語解説】
非定型肺炎:マイコプラズマやクラミジアなど、 通常の細菌とは異なる病原体による肺炎。 初期段階ではレントゲンで見えづらく、 時間経過で症状が悪化することがある。 抗生剤の種類によっても効き方が異なる
多剤耐性菌:複数の抗生剤に耐性を持つ細菌。 不必要な抗生剤の使用により、 本当に必要な時に効かなくなる危険がある。 特に高齢者や免疫が低下した患者で 重症化のリスクが高い
【参考文献】
1: Heikkinen T, Järvinen A. The common cold. Lancet. 2003;361(9351):51-59. doi:10.1016/S0140-6736(03)12162-9
2: Harris AM, Hicks LA, Qaseem A; High Value Care Task Force of the American College of Physicians and for the Centers for Disease Control and Prevention. Appropriate Antibiotic Use for Acute Respiratory Tract Infection in Adults: Advice for High-Value Care From the American College of Physicians and the Centers for Disease Control and Prevention. Ann Intern Med. 2016;164(6):425-434. doi:10.7326/M15-1840
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